ピエール・カミを読む






「恐慌時代」


手袋をはめて片眼鏡をかけた紳士が、箒をもって自家用車から下りると、往来を掃除し始めた。
プシットとプシュットの二人が、その光景を驚きの目で眺めていると、紳士は“哀れな掃除夫を嘲弄うなんて罪な話じゃないですか!”という。
そこへ、高価な毛皮を着てしゃれた帽子をかぶった魚屋のおかみさんが、手押し車を曳いてやってきた。紳士曰く、彼女はカステルブーレ男爵夫人ということだった。
どう見ても立派な身なりをしている彼らが道を掃除したり、魚を売り歩くというのはどういうことなのだろう?そこには二人の知り得ない事情があるらしい。
私は学生時代、新宿駅西口で外車に乗って立ち去る路上生活者を見たことがあるが、ふとそのことを思い出してしまった。
(吉村正一郎訳/出帆社『ルーフォック・オルメスの冒険』所収)
                (2005.5.26/菅井ジエラ)

「ピエール・カミを読む」ページトップヘ
「文芸誌ムセイオン」トップヘ

All Rights Reserved Copyright (C) 2004-2016,MUSEION.

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

inserted by FC2 system