P・G・ウッドハウスを読む



「伯母さんとものぐさ詩人(The Aunt and the Sluggard)」
(1916)


バーティーがニューヨークにいた時の話。
友達のロックメトラー・トッド(愛称ロッキー)は売れっ子の詩人で、ニューヨークから遠く離れた田舎に一人で住んでいる。彼の生活は、1年のうち月に3日だけ詩を書くための日を設け、残りの329日はひたすら休むというスタイル。彼曰く、それだけで十分に食べていけるのだという。要はものぐさ詩人というわけだ。
そんなロッキーがニューヨークにいるバーティーを訪れた。田舎暮らしを堪能しているはずの彼がどうしてこの大都会にいるのか。何かあったに決まっている。
ロッキーは自分の手に握りしめた手紙をバーティーの鼻先にちらつかせては、“これを読め”と言ってきかない。
それはイザベルという名の彼の伯母から送られてきたものだった。
“愛するロックメトラー 長いこと繰り返し考えて、一つの結論に達しました”
そのような文面から始まる手紙には、大体以下のようなことが書かれていた。

1.私(イザベル)は生まれてから、ずっとニューヨークを訪れたいと思っていた。
2.しかし、今では身体がすっかりだめになってしまったので、その夢は叶えられそうにない。
3.だから、私がこれまでニューヨークでそうしたいと願っていたことを、お前(ロッキー)が代わりにして、手紙で報告してほしい。
4.私の願いが叶えられれば、遺産はすべてお前(ロックメトラー)にあげる。

ロッキーの悩みはこうだ。「一体俺はどうしたらいいんだ?」
「お前は嬉しくないのか?」
バーティーの質問に対する彼の答えは、「ニューヨークになんか住んだら俺は死んじまう」
ニューヨークに住みたくはないが、かといって伯母の莫大な遺産は放棄したくない。
そこで、ジーヴスが助け船を出した。
ジーヴスのアイデアは、ロッキーの代役として誰か他のものに伯母が望むような経験をさせ、代役から報告を聞いた彼がそのまま手紙に認めて伯母に送ればよい、というものだった。
それなら、ロッキーは今までどおり田舎暮らしができるというのだ。
「(その代役を)ジーヴスにやらせよう」
そう主張するバーティーの意見が通り、ジーヴスがこの町の魅力をかき集めることになった。
ロッキーは書き物に慣れているから、心情豊かに手紙を認めるのはお手のもの。この作戦は大成功だった。
しかし、ここで不測の事態が起こってしまう。
伯母のイザベルがバーティーのもとを訪ねてきたのだ。ロッキーは田舎の家にいて、ここにはいない。
「ロックメトラーは在宅かね?」……「ずいぶんくつろいでらっしゃるみたいだけどね、お若い方。あんたはロックメトラーのご親友かね?」
イザベルはすっかり、この家がロッキーのものだと思っている。
これは嘘がばれるのも時間の問題のようだ。さあ、どうするバーティー&ジーヴス。…。
もう何度書いたか分からないが、ここでも言わせてもらう。“バーティーは、あまりにもかわいそすぎる!”

★所収本
・森村たまき訳/国書刊行会『それゆけ、ジーヴス』(伯母さんとものぐさ詩人)

                      (2006.3.12/菅井ジエラ)

 

 

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