P・G・ウッドハウスを読む



「素晴らしき日(Mr.McGee's Big Day)」
(1950)


ジョン・マックギーはデルヘイ・ホテル専属の私立探偵。
ホテル内で無駄ないざこざが起こらないよう、不穏な動きをいち早く察知して、未然に防ぐのが彼の仕事だ。
ホテル専属の探偵として、何よりも大切なのは探偵くさく見えないようにしていることだが、この点についてマックギーは著しい成功を収めていた。
ここで働く以前は、ピンカートン私立探偵事務所で強者どもを相手に相当ならしたが、歳を重ねた今となっては、誰もが彼のことを親切な初老の紳士としか見ない。
その日、彼の近くに座っていた女性がハンドバッグを落とした時、さっとそれを拾ってやっても、彼女には彼が上品な父親のような優しさをもった男性としかうつっていないようだった。(しかし、マックギーは顔に見覚えのある彼女のことがどうしても思い出せず、自身の衰えを感じたのであったが…)
ところで、この仕事をしていると、誰もがニューヨークやロンドン、パリ、シカゴなどで有名な悪人たちのことに精通するが、その日、まさにそのうちのひとりがホテルに現れた。
本人は変装していると思っているのだろうが、マックギーは彼がハーバート・ヒッグス、またの名をパーシー・ストークス、またの名をオティス・フィッツパトリック、またの名をチャウンシー・キャボット、またの名をクリストファー・ロビン・コークという、クラリッジ・ホテルで大がかりな仕事をしでかた男だということを看破した。
というのも、マックギーこそ、一度彼をとっ捕まえた張本人だったのだ。
“よくもいけしゃあしゃあとこのわしの縄張りの中に乗りこんで来やがった…”
彼の登場にマックギーは憤ったが、相手もまた、マックギーの存在を認めると、“わざとらしい無頓着ぶり”を装いながら階段で中二階の方に逃げていき…。
“魔の眼のおやじ”としてホテルのスタッフや警察に一目も二目もおかれる老紳士の見事な仕事ぶり。家では妻とのんびり幸せな生活を送っている彼の一日を追った物語。
この話を読んで思ったが、ホテル専属の探偵という仕事は今でもあるのだろうか。旅行でいろいろなホテルに泊まっているが、もちろん探偵の気配など微塵も感じたことがない。
もしかすると、どのホテルでも、マックギーのような老紳士の眼が光っているのかもしれないと思うと、何故か妙なスリルを覚えてしまう。

★所収本
・三田村裕訳/早川書房「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン1960年6月号」(素晴らしき日)

                      (2006.9.24/菅井ジエラ)

 

 

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