P・G・ウッドハウスを読む



「七転び八起き(Came the Dawn)」(1927)


今回、ムリナア(マリナー)氏がいつもの社交室で話し出したのは、甥のランスロットのことだった。
ランスロットはオックスフォードを卒業したばかりの24歳。彼の母方の伯父で、ブリッグス朝食用漬物会社の創設者かつ所有者でもあるジェレミア・ブリッグスは、ランスロットがお気に入りで、彼が大学を卒業したら自分の会社に入れようと思っていた。しかし、ランスロットは伯父の会社に入る気など毛頭ない。
「だってねえ伯父さん、僕は全く異った方面で身を立てることに決めちゃったんです。僕は詩人ですからね」
ランスロットは伯父のヨットで数日間を過ごしていた船上で、彼に言った。
“俺の事業の中にも随分と詩はある”と話す伯父に向かって、彼は「僕の芸術を商業化したくはありませんからね」と大口をたたく始末だ。
この言葉でブリッグス老人の怒りを招いたが、ランスロットは何とも思っていない。彼は素敵な女性が今自分の前に現れたら、情熱をその女性に惜しげもなく捧げるのに…と夢想するのだった。
その時、先を行くヨットに“この世のあらゆる時代の美が総合された”女性を認めた。
ランスロットはヨットから下りた後、彼女を捜すことにした。“あんなに美しい女性なら、どこかのダンス倶楽部に通っているはずだ”。そう信じた彼は連夜、夜の倶楽部を回り、とうとう彼女を見つけた。
ランスロットの胸はいやが上にも高まり、彼は彼女に単刀直入に声をかけた。「踊りませんか?」
二人は急速に打ち解けるが、彼女から求婚者がたくさんいることを知らされる。
彼女はビッドルカム伯爵を父に持つが、現在家が経済的に窮しているため、結婚相手はお金持ちでなければならない。彼女曰く、今のところバーヴィス液体食料膠会社のスリングスビー・バーヴィスが結婚相手として有力だというのだった。
ランスロットはその話を聞いてもがっかりしない。なぜなら、彼にはある策略があったからだ。さて、ランスロットは彼女と結婚することができるのだろうか?
十分に面白いが、マリナー氏ものにしてはトンデモ展開がなく、少し物足りない気がした。

★所収本
・鈴木俊彦訳/「新青年」昭和2年12月号(七転び八起き)

                      (2005.6.29/菅井ジエラ)

 

 

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