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 ダンテ『神曲』(イタリア)


1265年イタリアのフィレンツェに生まれたダンテが書いたこの壮大な詩は、ルネサンス開花の 大きな引き金となった。
執筆していた当時、ダンテはフィレンツェでの高官の職を失い政変によって市から追放された身であった。
この詩のなかではダンテ自身が主人公となって登場する。精神的苦痛に喘ぎながら森を彷徨っていると、時代を超えて現れたローマ時代の詩人ウェルギリウスと出会うところから物語は始まる。
ウェルギリウスはダンテを地獄、煉獄に案内する。そこで、過去に政治的犯罪や道徳的犯罪を犯して 罰せられている人が過酷な刑を受けているのを目撃する。ダンテは罪人の犯した数々の罪を本人たちの口から聞かせられる。ダンテが目にするその地獄絵図はかなりの現実感がある。何故なら、現実に罪を犯した人が 登場して語るからだ。ここまでの内容だと単なる宗教ものといった感じしか受けないが、この後ヴェアトリーチェと出会い、天国に導かれて人の精神が救われる道があることを知るという ロマンチックな展開に変化していく。
ヴェアトリーチェとは実際にダンテが十代の頃愛し合った女性なのだが、二人は本人たちの意志に反して違う異性と結婚することになる。しかし、ダンテは別の女性と結婚した後もずっと彼女のことを想い続けるのだが、彼女は結婚後若くして亡くなったのであった。 現実の世界では思いを果たせないまま永遠の別れを遂げた二人は、ダンテ自身の作品で劇的に再会する。

「神曲」のなかでは、死から蘇って現れたヴェアトリーチェによって精神の危機から救われるダンテ。
人は誰もが空想によって精神の渇きを満たされた経験があるものだが、その空想する精神を賛美したこの詩ほど「複雑な基盤の上で成り立っている近・現代」の神話ともいえる体系を打ち立てた作品はないだろう。
                           (2003.8.30/A)

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