P・G・ウッドハウスを読む



「猫嫌ひ(The Man Who Disliked Cats)」(1912)


私がジャン・プリオーという名のフランス人と出会ったのは、カフェ・イギリスで夕食をとっていた時のこと。そのカフェは一年中、冬でも蠅がいて、その晩も戸外では雪が降っていたにも関わらずテーブルの上でいつもの顔に5つ6つ出くわした。そこに突然ナプキンの振られた音がしたかと思うと蠅の姿はどこへやら。そのナプキンを振った主こそ、隣のテーブルにいた彼だった。
蠅のおかげで知り合いになれた私たちは、コーヒーを飲みながらすっかり仲良くなったが、いきなり彼が「ネコ、ネコ」と変な声を出した。聞くと彼はネコが大の苦手だそうだが、そうなったのには訳があるという。
彼は『十一時にちょっと用事があるんですが』と言う私を無視して、ネコ嫌いになった顛末を話し出した。

彼はパリにいた頃、画家をめざし、まずは画家の弟子になりたいと思っていた。しかし当時、彼は叔父の世話になっており、叔父にその思いを伝えても一蹴されてしまう。
「そんなものになるより、わしのホテルで働くがいい」
叔父はプリオー・ホテルのオーナーで大変な金持ち。彼は泣きながら叔父のホテルの出納係として働くようになった。それこそ、彼がネコ嫌いになった最大の理由だという。
ホテルには世界中のお金持ちがやってきて、彼らはみんなペットを連れてくる。らくだ、キリン、ライオン、ワニ…。その中に、アメリカの夫人が連れてきた“アレキサンダー”という名前のネコがいて……。

いつものように恋愛沙汰がからみ、話はパリからロンドンへ。このフランス人もツイていないとしかいいようがない。ただ、今、就いている仕事では…。
ちょっと作り話的すぎるでしょうか。

★所収本
・梶原信一郎訳/「新青年」昭和2年2月号、同訳/博文館『どもり綺譚』(猫嫌ひ)
                      (2006.6.20/菅井ジエラ)

 

 

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