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ジェームズ・サーバー
「虹をつかむ男
─ウォルター・ミティ氏の秘密の生活─」


……「やあ、ミティ…患者は百万長者の銀行家、ローズベルト大統領の親友だというマクミランだがね。分泌線導管障害、しかも第三期だよ。きみ、ちょっと診てくれるとありがたいんだが」
「よろこんで」

……ウォルター・ミティは拳銃を受けとり、ものなれた手つきでそれを調べた。「これは私のウェブリー・ヴィカーズ50・80です」
「被告は、どんな銃を持たされても、射撃にかけては名手だったね、たしか?」と地方検事が意味深長にカマをかけてきた。
「異議あり!」
ウォルター・ミティが軽く手をあげたので、やっきとなっていた弁護士はおし黙った。
「拳銃と名のつくものならどんなやつでもいい。…わたしは、左手でもって、百メートルの距離から、グレゴリー・フィッツハーストを撃ち殺すことぐらいヘッチャラです」

……ウォルター・ミティは足を早めた。A&Pのチェーンストアにとびこんだ。
「ちっちゃい小犬にやるビスケットがほしいんだが」
「なに印のになさいますか」
「箱に<ポチが尾を振る>って書いてあるやつだ」

……「ひっきりなしの砲撃で、ラリーはすっかりおびえきってます」と軍曹が言った。ミティ大尉はたれさがった髪の間からそちらを見上げた。
「おれはひとりで飛び立つ」
「あの爆撃機は二人必要です。それに高射砲の弾幕がものすごいのと、ソーリエへ行く途中にはフォン・リヒトマンの命知らずの一隊ががんばってますし」

………。

……。

…。

ある時は手術室、またある時は刑事事件の法廷、さらにある時は激戦地の最前線。神出鬼没のウォルター・ミティ。彼は一体何者なのか。
ジム・キャリーばりのウォルターの活躍を描くショートストーリー。これまで本誌内だけでも数多くのレビューを書いてきたが、この作品の内容を説明するのが一番難しいと思った。
ところで、ジム・キャリー主演(まさに適役だ!)でリメイクされるという話はどうなったのだろう。
(鳴海四郎訳/早川書房『ニューヨーカー短編集I』所収)
                      (2006.9.2/B)

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