ノーベル賞作家の
作品を読む

高行健『ある男の聖書』(集英社)



ある中国人男性の半生を描いた作品。中国にいた頃の主人公「彼」と、中国を離れフランスで暮らす現在の主人公「おまえ」がこれまでの人生を振りかえる。
「彼」が生きた中国では、文化大革命という大きなうねりに中国国内のすべての人たちが飲み込まれていたが、「彼」ももちろんその例外ではなかった。告発、迫害、労働改造…。不用意な発言はそのまま死を意味する。素直な気持ちをそのまま言葉にできない生活。「彼」は机に向かい、自分の思いを紙に記していく。
そして、さまざまな女性との出会いと別れ。彼女たちが抱えている悩みは「彼」も「おまえ」もどうしてやることもできないほど大きく、解決方法の見えないものだった。
やがて「彼」は国外に安住の地を求め、祖国と決別。両手を広げて「おまえ」を迎えてくれる外国で新たな一歩を踏み出すのであった。

評価

中国を離れ、政治亡命者となり、フランス国籍を取得した作者の自伝的小説ともいえる。訳者の飯塚氏はあとがきで、「生い立ちから現在の心境まで、そのほとんどが作者のありのままの告白と思ってよい」と記している。
本書の根幹には“文化大革命”という歴史的に大きな出来事が関わっているが、それについてほとんど知識のない(恥ずかしい!)私でも無理なく読めた。時代の波にもまれながら、必死になって人生の舵取りをする一人の男。スケールの大きな大河小説的な内容は、ノーベル賞という栄誉を与えられた作家の代表作と呼ぶにふさわしいものだ。
それにしても、女性を次から次から。モテモテさんだなぁ(笑)。


作者について
高行健(ガオ・シンヂエン)
1940年、中国江西省生まれ。70年代末にモダニズム小説の作家として登場し、81年以降は演劇の分野でも脚光を浴びる。その後、画家としても人気を博し、85年からはヨーロッパ各地で個展を開くまでになった。89年、天安門事件を知り『逃亡』を執筆。その後発表された『霊山』、『ある男の聖書』などの作品すべてが、中国では発禁処分になっている。
なお、100年以上の歴史があるノーベル文学賞で、彼が中国人作家の受賞者第一号である。
※『ある男の聖書』訳者あとがき及び作者略歴を参照した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トップヘ

 

 

 

 

 

inserted by FC2 system