ノーベル賞作家の
作品を読む

高行健『逃亡』(平凡社ライブラリー)



“文革”の中に生きる一組の若い男女と中年の男の魂の葛藤を描いた二幕劇。
舞台は廃墟と化したある都市。一組の若い男女が命からがら逃げてきて、安全と思われる古びた倉庫の中に身を隠す。
そこに何やら他に事情があるらしい一人の中年の男がやってくる。
若い男女は「活動中」の身。中年の男は単なる傍観者。
それぞれ立場や考え方が異なる三人が、命の危険にさらされながら、熱い議論を戦わせる。

作品タイトルとなっている“逃亡”という言葉が、常に背後につきまとっている三人。
いや、三人のみならず、この時代の人たちはみなこの二文字を背負いながら暮らしていたのかもしれない。


評価

“文化大革命”という大事件の意義についてもっと知識があれば、さらに深く突っ込んだ評価を行うことができるのだろうが、恥ずかしながら(残念ながら)私はその力を持ち合わせていない。しかし一読者としては、将来に対して追いつめられている人間たちの精神構造にふれ、大洪水となって訴えかけてくる目に見えないものを“感じ取る”ことはできた。その振れ幅は戯曲という表現形式をとっているために、より大きなものになっている。


作者について
高行健(ガオ・シンヂエン)
1940年、中国江西省生まれ。70年代末にモダニズム小説の作家として登場し、81年以降は演劇の分野でも脚光を浴びる。その後、画家としても人気を博し、85年からはヨーロッパ各地で個展を開くまでになった。89年、天安門事件を知り『逃亡』を執筆。その後発表された『霊山』、『ある男の聖書』などの作品すべてが、中国では発禁処分になっている。
なお、100年以上の歴史があるノーベル文学賞で、彼が中国人作家の受賞者第一号である。
※『ある男の聖書』訳者あとがき及び作者略歴を参照した。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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