P・G・ウッドハウスを読む



「セールスマンの誕生(Birth of a Salesman)」(1950)


姪の結婚式でニューヨークにやってきたロード・エムズワース。ドルの持ち出し制限の問題でホテルに滞在することができないため、新郎の叔母ミス・プリムソールの家に泊まるか、ロング・アイランド郊外に新居を構える次男のフレディのところにもぐりこむしかなかった彼は、ミス・プリムソールが最低6匹のペキニーズを飼っていることを知り、フレディのもとに行った。だが、これが騒動の始まり。頼みのフレディは仕事の接待でゴルフ・クラブにて会食をするため外出。おまけに、その日は使用人が休みだと言う。
「…お盆の上に給食が載ってます。ぜんぶ冷たいものですが…」
フレディが当地のドッグ・ビスケット業者ドナルドソンズに勤め始めて、はや3年。この間に彼は優秀なセールスマンになっていた。今では、フレディは父のロード・エムズワースを何もできない男という目で眺めている。

それで、ロード・エムズワースがひとりフレディ宅に入り、食卓を覗くと、確かにお盆の上に冷たい料理があった。
“戦闘機の死体のように朱に染まったハム、灰色のコーンビーフ一切れ、藤色のレバー・ソーセージ、…巨大な緑のピクルス…”
彼は冷蔵庫から卵を取り出し、50年以上も前の学生時代を思い出しながら、スクランブルエッグ調理大作戦を敢行することにした。だが、その作戦は開始早々、苦戦モード。その時、玄関のベルが鳴ったので見に行ってみると、玄関ポーチには若い女性が立っていた。
「おはようございます。豪華版スポーツ百科事典にご興味ありませんか?」

フレディへのライバル心も手伝い、いつになく行動力のあるところを見せるエムズワース卿。ここ一番のトークを見ていると、天然キャラながら、案外やり手なのかも。

★所収本
・岩永正勝・小山太一編訳/文藝春秋『エムズワース卿の受難録』(セールスマンの誕生)
                      (2006.4.29/菅井ジエラ)

 

 

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