P・G・ウッドハウスを読む



「玉子を生む男(The Reverent Wooing of Archibald)」
(1928)


その夜、釣天狗倶楽部の酒場で、いつもの連中が話題にしていたのが、最近の若い女の子のことについて。
みんな同じような子ばかりになってしまったと嘆く仲間に、マリナー氏は満更そうとはいえないと同意しなかった。
そして、甥のアーチボルド・マリナーがオリーリヤ(オーレリア)・キャマリーに恋した時のことを話し始めた。
甥のアーチボルドは“ボンクラ”な男で、“彼のボンクラは普通のボンクラよりも並外れている”というのがマリナー氏の見解だ。
そのアーチボルドが、オリーリヤに一目惚れをした。彼が桃源倶楽部でカクテルを飲みながら、窓からドーヴァー街を眺めていると、舗道でタクシーを待っている一人の飛びきり美しい女性を見つけたのだ。それがオリーリヤだった。というのも、ちょうど一緒に倶楽部に来ていたアルジーが彼女のことを見知っていたのだ。
「よかったら紹介してやるぜ。彼女は大抵アスコット競馬場に来ているよ。二人でいるから探しに来給え」
アルジーの話によれば、彼女は叔母と一緒に住んでいて、その叔母というのがとてもつまらない女だという。
「(彼女は)シェークスピアはベーコンが書いたと思っているんだ」
シェークスピア? ベーコン? アーチボルドはアルジーの言葉が気になってしょうがない。そんな難しいことを何でも知っている叔母と一緒だとなると、オリーリヤは高尚な精神生活を送っているに違いない。
それに対して自分はどうなんだと苦悩するアーチボルド。オリーリヤに求婚するような男には、何かしら天賦の才がなければいけないはず。アーチボルドは自問する。自分にある天賦の才って何だ?
“めんどりがタマゴを生む真似ができるぐらいしかない”
ロンドンの貴公子連が「上手や達者は他にもあろうが、名人というのは君だけだ」と最上級の賛辞を送ってくれるアーチボルド得意の至芸。だが、これが何の役に立つというのか。
思案の末、彼はシェークスピアとベーコンに関する本を残らず取り寄せ、頭にたたき込んで、叔母から落としていく作戦に出たのだが…。
“ボンクラ”といいつつ、そこは名士マリナー氏一族。やる時はやってくれる。オリーリヤもなかなかいい女性だ。


★所収本
・長谷川修二訳/東成社『玉子を生む男』(玉子を生む男)
・岩永正勝・小山太一編訳/文藝春秋『マリナー氏の冒険譚』(アーチボルド式恋愛法)

                      (2006.9.27/菅井ジエラ)

 

 

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