『ミスター・ペイル』レイ・ブラッドベリ



宇宙船の乗客の中にひどく具合の悪い人がいると知らされた医者は、慌ててその乗客のもとに向かう。そして、その乗客が寝ている部屋に入り診てみると、病人の手はまるで死人のように冷たく、脈は医者の指先の拍動に隠れて感じ取れないほどだった。
「(私のことを)ペイル(=蒼白)と呼んでくれ」という病人に、ここまで病状が悪化した理由を尋ねても、「なにも食べていないから」と言うばかり。「さっき、このロケットに追いつくのに全エネルギーを使い果たしてしまった」と訳の分からないことを言っている。その言葉を聞いていた船長は「地球から1600万kmも離れているのに、そんなばかなことはない」と答える。彼と思われる男性の名は乗客名簿に記載されておらず、密航者には間違いない。しかし、この病状とあっては医者として助けないわけにはいかない。だが、念入りに診察しても、不思議とどこも悪いところが見当たらない。本当に腹が減っているだけなのだろうか。腹が減っているだけでこれほどまで瀕死の状態になりうるだろうか。そこで、ペイル氏に再度話を聞いていると、彼は突飛なことを話し出す。そして「そこの窓から外をみてみるがいい」という彼の言葉に従い、一同が外をのぞいてみると、しばらく経ってから思わず目を疑ってしまうようなことが起きてしまうのだった。
『火星年代記』『華氏四五一度』などで知られるSFの大家、レイ・ブラッドベリが書いた短編集『バビロン行きの夜行列車』からの一作品。話の内容について、あまり深く踏み込むとネタバレになってしまうので、興味を持たれた方はお手にとってどうぞ。
                      (2004.8.29/菅井ジエラ)

『バビロン行きの夜行列車』(角川春樹事務所)収録作品
「バビロン行きの夜行列車」
「MGMが殺られたら、だれがライオンを手に入れる?」
「やあ、こんにちは、もういかないと」
「分かれたる家」
「窃盗犯」
「覚えてるかい? おれのこと」
「くん、くん、くん、くん」
「目かくし運転」
「いとしのサリー」
「なにも変わらず」
「土埃のなかに寝そべっていた老犬」
「だれかが雨のなかで」
「似合いのカップル」
「鏡」
「夏の終わりに」
「夜明けの雷鳴」
「木のてっぺんの枝」
「女はつかのまの悦楽」
「処女復活」
「ミスター・ペイル」
「時計のなかから出てくる小鳥」

 

 

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