P・G・ウッドハウスを読む




「わが家ホテル(Ukridge and the Home from Home)」(1931)


夜中の三時に家のドアを叩く奴がいる。叩いた主は従僕のボールスだった。聞くと、アクリッジ(ユークリッジ)が家に来ていて、タクシー代をくれと言っているというのだ。
最近では、アクリッジは有名な小説家でもあるジュリア叔母さんのところに下宿していると聞いていた。それがこんな夜中にどうしてやって来たのか。私はアクリッジに聞いてみた。
「一体どうしたってんだい!そんな恰好でうろつきまわって?」
彼はパジャマにレインコートをひっかけ、足元は素足にスリッパという恰好だったのだ。
そして金を借りに来るばかりで、ちっとも返したことなどないアクリッジが、この間、珍しくもお金を送ってきたのがとても不思議に思えたというようなことを話すと、
「なあに、ほんのつまらんホテル経営をやってね」と話す。
どうやら、今夜の突然の訪問も、そのホテル経営とやらに関係しているらしい。
そこで聞いてみると、大体こういうことだった。
ジュリア叔母さんが仕事で一年ばかりハリウッドに行くことになった。その間、叔母の邸をホテルに仕立てて人を住ませれば、一儲けできると踏んだ。世間では郊外に家庭的なアパートがとても繁盛しているが、叔母の邸はものが違う。これは大金が入ってくると思い、新聞広告を出して六人の住居人を選んだ。
叔母は忙しいのか、ハリウッドからの連絡はまったくなかったが、“ホテル事業”が成功を収めているので、彼は願わくは一年でなく三年ほどに延びないものかと思っていた。
しかし、ある日ロンドンで叔母の友達のアンジェリカ・ヴァイニング女史と会った時、彼は衝撃的な話を聞く。
「あなたの叔母様は近々御帰朝なさるそうざますよ」
ジュリア叔母さんは、現地で仕事相手と喧嘩別れをしたので急遽戻ってくるというのだ。
ヴァイニング女史からその話を聞いた時、アクリッジは急にめまいを覚えながらあることに気付く。「早く下宿の六人に立ち退いてもらわなければ、まずいことになる」。
彼は邸の執事、小間使い、女中、料理人などと協議し、住人の追い出し作戦を敢行することになった。
しかし、いつも計画がそのまま何事もなくうまく行った試しがない。今回はどんな騒動が巻き起こるのか。

★所収本
・乾信一郎訳/「新青年」昭和13年夏期増刊号(わが家ホテル)
・森村たまき訳/国書刊行会『エッグ氏、ビーン氏、クランペット氏』(ユークリッジのホーム・フロム・ホーム)
・岡成志訳/東成社『愛犬学校』(家庭寮没落史)

                      (2005.3.4/石井和人)

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