芥川龍之介「私と創作」から


芥川龍之介の作品を読んでいると、彼の頭の中に、泉のようにアイデアが湧き起こっているような気がするが、
天才とはいえ、彼も人の子。執筆には苦労していたようだ。

“材料はあっても、…材料と自分の心もちが、ぴつたり一つにならなければ、小説は書けない”

材料を手に入れて、すぐに書けることもあれば、材料のことを忘れた頃に書けるようになることもあり、
それはいつ訪れるか分からなかったそうだ。ただ、その時になると“眼の先が明くなつたやうな心もち”がしたという。

この文章の中で面白いと思ったのは、芥川の執筆の日常が垣間見られること。
“午前中と夜の六時頃から十二時頃までが、一番働き易い”
“夜の十二時すぎになると、その時は夢中になつて書いてゐても、あくる日見て、いや気のさす事がよくある”
“日で云ふと風の吹く日がいけない”
“季節は、十月から四月頃がいゝやうだ” ……。

また、このようなことも書いている。
“書き出すとよく、癇癪が起る”
“文章にも、可成くだらなく神経をなやませる”
“書いてしまふと、何時でもへとへとになる”

まさに神経をすり減らしながら執筆活動を続けた芥川龍之介。そして、彼があのような最期を迎えるというのは…。

                      (2007.9.30/菅井ジエラ)


『私と創作─「煙草と悪魔」の序に代ふ─』芥川龍之介全集第2巻(岩波書店)

 

 

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