P・G・ウッドハウスを読む



「ウィリアムの話(The Story of William)」(1927)


マリナー氏の行きつけの飲み屋にカリフォルニアから客がやってきていた。そこでマリナー氏は、叔父のウィリアムがよく「自分の結婚はサンフランシスコの大地震がなければなかった」と言っていると彼に話すと、このアメリカ人はサンフランシスコに地震なんてなかったと答える。そこでマリナー氏は叔父の結婚にまつわる逸話を話し出した。
叔父のウィリアムは仕事で中国に行った帰り、北米大陸を汽車で横断して帰ろうとサンフランシスコで船を降りるつもりでいた。そして船旅の間に意気投合したマートル・バンクス嬢も、その町で降りようとしていると知り、ウィリアムはこの人こそ運命の人だと思ってプロポーズした。しかし結果はノー。同船していたフランクリンと結婚することにしたと言う。
「私たち女って、ああいうことのできる殿方を尊敬しますわ。ボーイ・スカウトのちっちゃなナイフで、鮫を三匹も殺したなんて殿方には、女は敬意をはらわずにはいられませんわ」
「そんなのは、話だけですよ」
「でも、そのちっちゃなナイフを見せてくださいましたわ」
傷心のウィリアムは、亡き母親との約束で一滴も飲んだことのなかった酒を飲もうと酒場に入り、彼女のことを忘れるために店の客に薦められるまま何杯も酒を口にして…。
ジーヴスものと並んで人気の高いマリナー氏ものの中で、日本の読者にもっとも馴染みのある作品のひとつ。

★所収本
・井上一夫訳/筑摩書房『〈世界ユーモア文庫9〉マリナー氏ご紹介/トッパー氏の冒険』、同訳/同『マリナー氏ご紹介/マルタン君物語』、同訳/同『マリナー氏ご紹介』(ウィリアムの話)
・黒豹介訳/東成社『恋の禁煙』、同訳/解放社『恋の禁煙─マリナー氏は語る─』(震災余聞)
・上塚貞雄訳/「新青年」昭和3年夏期増刊号(J・S・E・M・?)

                      (2005.5.22/菅井ジエラ)

 

 

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