P・G・ウッドハウスを読む



『よしきた、ジーヴス(Right Ho, Jeeves)』(1934)


この複雑怪奇な事件は、約2カ月間のカンヌ滞在がそもそもの発端だった。
それは6月の初めのこと。僕(バーティー)とダリア叔母さん、そして従姉妹のアンジェラの3人でカンヌへ旅行に行った。ジーヴスはアスコット競馬を見逃したくないという理由から、ダリア叔母さんの夫であるトーマス叔父さんは南フランスが大嫌いなので家に残った。アンジェラの婚約者タッピー・グロソップもまた、出発直前になって行かれなくなった。
2カ月もいると、もちろん色々なことがある。ダリア叔母さんがバカラで有り金全部をすってしまい、アンジェラがサメに襲われてもう少しで食べられてしまいそうになったのだ。しかし、概してとても素晴らしい滞在だったといえるだろう。

そんな気持ちの良い日々を過ごし、真っ黒に日焼けした僕は、久しぶりに自宅に戻りジーヴスに迎えられた。僕はその日の夜にドローンズで食事をしようと思っていたが、支度をしている際に、ジーヴスから思いもしなかった名前を聞かされたのだった。
「…僕の留守中に電話したり訪ねて来たりした奴はいなかったかい?」
「フィンク・ノトル氏が頻繁にお訪ねでございました」
フィンク・ノトル?
僕は耳を疑った。友人の(ガッシー)・フィンク・ノトルはロンドンが大嫌いだという奇人で、年中辺鄙な村で暮らしながら、たくさんのイモリに囲まれて、イモリの生態を研究している。そんな彼がロンドンに現れるわけがない。何かの間違いではないのか。
「背びれはついてなかったか?」
「おそらく何かしら魚類との類似が認められたものと存じます」
「じゃあガッシーにちがいないな。…」
だが、どうしてガッシーがロンドンにやってきたのだろう。
「…お若いレディーがこちらにいらっしゃるがために、お越しになられたのだそうでございます」
「若いレディーだって?」
「さようでございます」

…ガッシーの恋煩いが、アンジェラやダリア叔母さん、タッピー、はたまたコックのアナトールたちを巻き込んで大騒動に発展。さまざまな事件が複雑に入り混じり、いつものごとくバーティーに火の粉が舞ってくるのだった。

ダリア叔母さんたちが住むブリンクレイ・コートを舞台に起こる、前代未聞の大騒動。バーティーは、この騒動を見事に収拾させることはできるのか?ジーヴスの手腕はいかに。
今回のバーティーは、体力勝負といったところか。そして、いつも以上にジーヴスの“心理学”が冴え渡る。


★所収本
・森村たまき訳/国書刊行会『よしきた、ジーヴス』
・乾信一郎訳/東成社『無敵相談役』
                      (2006.12.3/菅井ジエラ)

 

 

「P・G・ウッドハウスを読む」ページトップヘ
「文芸誌ムセイオン」トップヘ

All Rights Reserved Copyright (C) 2004-2016,MUSEION.

 

inserted by FC2 system