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O・ヘンリ賞受賞作品を読む




1943年
カーソン・マッカラーズ「木・岩・雲」


その朝、新聞配達をほとんど終えた少年は、休憩のために終夜営業のカフェに立ち寄った。いつもなら、親しげに話しかけてくる人たちが、その日はなぜか話しかけてこない。主人のレオさえ少年の顔を見ようとしなかった。少年は金を払って出ていこうとすると、代わりに見知らぬ男から声をかけられた。
「なんですか?」
そう答えた少年の肩に、男は片手を置き、少年の顎をつかんでゆっくりと左右に向きを変えさせた。
「なんですか? どういうことですか、これは?」
すると男は答えた。
「お前を愛しているよ!」
カウンターの男たちはみんな笑い出す。どうしたらよいか悩む少年。だが、男は真顔だった。
そして少年に向かって言う。
「…話さなければならぬことがある」
男は尻のポケットから写真を取りだすと、少年に見せる。そこに写っているのはひとりの女性。10年前に彼の前から突然姿を消した彼の女房だった。

その日以来、女房を捜している男。彼女が立ち寄りそうな場所を虱潰しに捜す。しかし見つからない。
そんな日々を送るようになってから2年経った頃、男の心にある変化が起こったという。その変化とは?

愛する女性をなくした男の心情の変化を、マッカラーズでなければ書けないような視点で描いていて、とても興味深い。
彼女の文章を読んでいると、いつも物語に引き込まれていく感覚に陥るが、それは彼女が優れたストーリーテラーだという証だ。
(大津栄一郎編訳/岩波文庫『20世紀アメリカ短篇選(下)』、山下修訳/英宝社『哀れなカフェの物語・サラサの靴』など所収)
                           (2006.12.17/B)

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