P・G・ウッドハウスを読む



「ジーヴズと白鳥の湖(Jeeves and the Impending Doom)」
(1926)


その朝、バーティは落ち込んでいた。というのも、これからアガサ叔母の屋敷へたっぷり3週間泊まりに行かなければならなかったからだ。そもそも、何故屋敷に3週間泊まらなければいけないのか分からないのが、彼をさらに憂鬱にさせていた。
「ジーヴズ──なぜ叔母はぼくを田舎屋敷に呼ぶんだ?」
「分かりかねます」
「ぼくが好きだからじゃない」
「それはありえません」

そこに玄関のベルが鳴った。ジーヴズが玄関から戻ってくる。電報だった。
“ココニツイタラ、アカノタニンニアエ。トテモダイジ”
名前がないので、誰が打った電報だか分からない。打電先を見ると、叔母の住むウーラム・チャーシーからになっていた。
何か事件が起こりそうな予感だ。
「つまり、この謎は時間だけが解決できるわけだ。様子を見るしかないな、ジーヴズ」
「まさにそう申し上げようと思っておりました」

さて、バーティたちが4時頃にアガサ叔母の屋敷に着くと、叔母は早速バーティにあるお願いをした。
「ミスター・フィルマーには、なんとかいい印象を与えてほしいの」
ミスター・フィルマーは大臣で、現在この屋敷に宿泊中なのだ。その大臣に品よく接してほしいという。
バーティは叔母が何を企んでいるのか分からないまま、軽く「いいよ」と答えたが、聞けば、タバコやアルコール類は一切NG。バーティは「そりゃないよ!」と愚痴るしかない。
その後、バーティは外に出ると、ビンゴ・リトルに偶然出くわした。彼は同じ村で数日違いで生まれ、幼稚園、イートン、オックスフォードと常に一緒だった幼友達。少し前に作家のロージー・M・バンクスと結婚して、今頃はロージーの講演旅行に付き添ってアメリカに行っているとばかり思っていたのに、こんな場所で出会うとは全くの驚きだった。しかし、いつものビンゴと様子が違う。彼は引きつった顔で話した。
「電報を受け取らなかったのか?」
あの電報はビンゴからだったのだ。聞くと、ある事情でトーマス(バーティの従弟で、これがまたとんでもない悪ガキ)の家庭教師をしているのだが、自分がバーティの幼なじみだというのがアガサ叔母にばれると、即クビになってしまう。この間もトーマスに対する管理不行き届きで、あやうくクビになりそうだったし、バーティとはお互いに赤の他人として振る舞いたいというのだ。
退屈な3週間も、ビンゴが一緒だと楽しくなると思っていた矢先に、この仕打ち。ビンゴが言うのはごもっともだと思ったバーティは、彼への友情を誓い、彼がクビにならないようにトーマスにも目を光らせながら、もちろんミスター・フィルマーにも粗相をしないよう心がけることにした。
そういうわけで、バーティにとって、筆舌に尽くしがたいほど大変な滞在が始まったわけだが、彼は無事にこの3週間を乗り切ることができるのだろうか、そしてビンゴは最後までクビにならずに家庭教師の仕事を全うすることができるのだろうか。
この作品では、いたづら小僧トーマスの暴走を食い止められるか否かが勝負の分かれ目。最後にやっぱりジーヴズの助けを借りなければいけないのは、毎度のこと。それにしても、1つの行為で同時に複数の問題を解決してしまうジーヴズの手腕。さすがとしか言いようがない。

★所収本
・岩永正勝・小山太一共訳/文藝春秋『ジーヴズの事件簿』(ジーヴズと白鳥の湖)
・森村たまき訳/国書刊行会『でかした、ジーヴス』(ジーヴスと迫りくる運命)

                      (2006.7.6、2006.7.28追記/菅井ジエラ)

 

 

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