P・G・ウッドハウスを読む



「花瓶(The Inferiority Complex of Old Sippy)」(1926)


龍、鳥、犬、蛇…。路地の一角にあった店で買い求めた中国の花瓶には、動物園といえるほどさまざまな模様が施されていた。僕(バーティ)は見るたびにこの花瓶が気に入り、居間の入口の腕木の上にそれを安置しているのだが、ジーブスはまったく気に入らないらしく、この花瓶の良さを解しようとはしない。僕は腹が立つのを通りこして情けなく感じ、“この思いを誰かに話したい、そうだシッピイに聞かせよう”と彼が働くメイフェア新聞社へ向かった。
新聞社で編集者をしているシッピイは、以前の彼とは違って仏頂面をしながら仕事をしていた。おかげで僕は自分の話を切り出せない状態に。そこで自分のことではなく、彼のことについてあれこれ話すことにした。
すると、シッピイは悩みがあると言い出した。紙面に執筆してもらっているグエンドオレン・ムーン嬢という詩人に恋をしてしまったというのだ。僕は思いの丈を打ち明けてみればいいじゃないかと言ったが、「そんなこと言えるか」とふさいだ様子。告白するだけの自信がないらしい。
そんな話をしているところに、“眼玉の鋭いローマン鼻の頬骨の赤い男”が入ってきた。男はシッピイに原稿を掲載しろと要求しているようだが、当のシッピイは断りの一言も言えないほど「はい、先生」「はい、先生」の一点ばり。男が帰ってからシッピイに聞いてみると、彼はシッピイのいた学校の校長で、未だに言を異にすることができないという。原稿内容が優れていれば問題ないが、彼の持ってくる原稿はどれも二束三文で、しかも彼の新聞の読者にはまったく関心のなさそうなものばかりだという。
そこで、僕は考えた。シッピイに威厳を取り戻してもらいたい。そうすれば、元校長の原稿を突き返すこともできるようになるし、好きな彼女にも告白できるのではないか、と。 僕は家に帰るや、ジーブスに相談。一方で自分自身でもよいアイデアが考えられるはずと思い、何かよい方法はないかと思案に明け暮れた。
「これならきっと上手くいくはず」。僕は練りに練った自分のプランを遂行するため、メイフェア新聞社に行き、準備に取りかかったが…。
途中でいろいろあっても、最後にはシッピイの願いを叶え、軽蔑していた例の花瓶もうまく始末するジーブスの手際。さすがとしか言いようがない。それにしても毎度のことながら、バーティはかわいそうな役回りだ。

★所収本
・訳者不詳/「新青年」昭和3年新春増刊号(花瓶)
・森村たまき訳/国書刊行会『でかした、ジーヴス!』(シッピーの劣等コンプレックス)

                      (2005.4.21/菅井ジエラ)

 

 

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