P・G・ウッドハウスを読む



「思案の外(Ahead of Schedule)」
(1910)


ロロ・フィンチの良き話し相手、それは従僕のウィルスンだ。今朝は恋を成就させる方法について彼と話していた。ロロ曰く、スケジュールをちゃんと立てていれば必ず上手くいくというのだ。
彼の持論によれば、まず一週目はただ彼女を眺めるだけ。そして二週目に毎日欠かさず手紙を送る。三週目は花を贈り続け、四週目にはもっと気の利いたもの(ex.宝石など)を贈る。五週目に入ったら彼女を晩餐に誘い、六週目にいよいよ結婚を申し込む。それで恋を成就させられるという。
“私のいた村では教会で見初めた女性を家まで送り、その次の日には散歩に誘ってキスをしてしまう”と言うウィルスンに、ロロは「それや田舎ではそれでいいだろうが、ロンドンみたいな都では役に立たないね」と同意しなかった。
ところで、ロロ・フィンチの母の兄はアメリカ・ペンシルバニア州ピッツバーグの富豪アンドリュー・ギャロウェイ氏。そのため、ロロの将来はギャロウェイ氏の気持ち次第で変わるといってもよい。というのは、ギャロウェイ氏は昔フィアンセに逃げられた苦い経験からまだ結婚をしていないが、このまま独身を通してくれると彼の遺産がロロ(ロロの母)の元に転がり込んでくるからだ。ピッツバーグの金持ちにはコーラス・ガールと結婚するものが多い(?)が、相手がコーラス・ガールであれ誰であれ、ロロは断じてアンドリュー叔父の結婚には反対するつもりだ。
そういうロロが今熱を上げているのが、デューク・オブ・コーンウォール劇場の舞台に立つパーカー嬢。
「いよいよ第三週目だから花だ。どうだい僕の時間割計画は?凄いもんだろう?」と話すロロ。彼はウィルスンに楽屋まで花を持って行って、彼女の反応を探ってきてほしいと言うのだった。
そんなお願いをした際、ロロはウィルスンからアンドリュー叔父が今ロンドンに来ていて、晩餐に来るように言われていると伝えられる。そのため、彼は叔父を訪ねるが、そこで思わぬことを聞く。叔父に結婚したいと思っている女性がいるというのだ。叔父が結婚というだけで驚きだったが、加えてその相手がパーカー嬢だと聞いたものだから、ロロは思わず長いため息を吐いてしまった。
しかし、まだ分からない。なぜなら叔父は多忙なので週末でないとプロポーズできないと言っているからだ。
“今後二週間の計画をたった一日に縮めて決行するしかない”。そう考えたロロは花と宝石を買い、晩餐の招待状を送り、食事の席で結婚のプロポーズをしようと心に決めて出かけたのだが…。
ウッドハウスの作品はどれも話のテンポが早いため読みやすいが、中でもこの作品には(少々内容に無理があるものの)無駄な文章が少しもなく、繰り返し繰り返し推敲を重ねたという彼の創作姿勢がうかがわれる。

★所収本
・上塚貞雄訳/「新青年」昭和4年9月号(思案の外)

                      (2005.5.20/菅井ジエラ)

 

 

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