P・G・ウッドハウスを読む



「コーキーの画業(The Artistic Career of Corky)」(1916)


ふとしたことがきっかけで、バーティがジーヴズとともにニューヨークでしばしの亡命生活を楽しんでいた時の話。
この街で意気投合し友達になった、自称肖像画家でコーキーという名前の男が、若い女を連れてバーティのアパートにやってきた。そして彼に向かって言う。
「バーティ、ぼくのフィアンセのミス・シンガーに会ってもらいたいんだ」。
コーキーはわたしに相談事があって訪ねてきたに違いない。そう思ったバーティは「コーキー、伯父さんのご機嫌はどうだね?」と返した。
このコーキーの叔父という人物。彼はインド麻の事業をやっているアリグザンダー・ワープルという名の金持ちだった。コーキーがうだつの上がらないながらも、画家として暮らしていけているのは、伯父に生活費を工面してもらっていたからだ。
聞くと、やはり相談があるという。内容もまさにこの叔父についてで、どうすれば二人の結婚を頑固な伯父にうまく切り出せるか、よい知恵があれば授けてほしいと言うのだ。
そこで、バーティはいつものようにジーヴズの知恵を拝借することに。ジーヴズが今回考えたのは、鳥類学者としても知られ「アメリカの鳥」という本まで執筆している伯父の鳥好きを利用するプランだった。彼女ミュリエル・シンガーが鳥の本を執筆したことにし、その本を伯父に献呈することでお近づきになろうというのだ。そのためにゴーストライターを雇い、実際に本を製作。計画は無事に進行し、伯父は彼女にいつでもたずねてきてもらいたいという内容の手紙を書いて送りつけた。
それからまもなくして、バーティーは猟仲間に誘われニューヨークを離れた。何ヶ月も経ってからようやくニューヨークに戻った時、街でミュリエルを見かけた彼は、彼女にその後どうなったかを聞いてみた。すると、事態は思いもしなかったことになっているのだった。
今回のお助けはある意味では成功したとも言えるし、失敗したとも言える。だが、やはりお金がかかりすぎたような。まあ、金持ちにとってはこれぐらいの金ははした金に過ぎないのだろうか。ああ、それなら私の本も出してほしいものだ。

★所収本
・井上一夫訳/集英社『20世紀の文学 世界文学全集 37』(コーキーの画業)
・大木澄夫訳/「宝石」昭和35年7月号(コーキイの芸術的生涯)
・森村たまき訳/国書刊行会『それゆけ、ジーヴス』(コーキーの芸術家稼業)

                      (2005.4.15/菅井ジエラ)

 

 

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